2021年7月の台所モンテコラム

★2021年7月1日★

人間の傾向性について

今回は、台所モンテ入門講座の「子どもの見方」でも触れている「人間の傾向性」と呼ばれるものについてお話したいと思います。
「人間の傾向性」とは、年齢、生まれた時代や国、社会情勢、経済などにもかかわらず、私たち人間に見られる普遍性です。
これが生涯を通して機能し、人間らしさを獲得していくための基盤となります。

人間の内側から駆り立てる強い力で、人がより人間らしくなるために私たちを後押ししてくれる衝動のようなもののことをいいます。
モンテッソーリは人類の歴史を振り返り、この「人間らしさ」を発達の土台と捉えました。
「人間らしさ」と言われても、今ひとつピンとこないかもしれません。具体例をいくつか挙げてみましょう。

・探求したい
・自分で自分の間違いを訂正したい
・秩序感
・抽象化したり、想像したい
・自分が今いる場所・時間を知りたい(見当識)
・もっと良くなりたい(向上心)

解釈により表現は異なる場合があるものの、こような傾向性を踏まえて人間らしい生活ができるように環境を整えていくことが、私たち大人の指標になります。

例えば、「探求したい」という傾向性について考えてみましょう。
幼児期は「これなぁに!?」と、手や五感を使って環境を探索する姿となって現れます。幼児期が「感覚を通して、動きながら学ぶ」時期だからです。
それが、児童期に入るとどうでしょう。想像力を使うようになるのです。
想像力を使うことで、現在の目の前の世界だけでなく、過去や未来、広い宇宙など抽象的な世界について「どうして?」と、その理由や背景を探索するようになります。
このように、発達によって現れ方は変わりますが、「探求したい」という傾向性は普遍的に存在するのです。

モンテッソーリ教育では、子ども達の自発的な活動が尊重されることは皆さまご存知の通りですね。この自発的な活動を見守る大人にとって、お子さまの誤りに気づいてしまったときの対応が一番難しいとお感じではないでしょうか。

モンテッソーリ教育において、「間違える」ことは何かを学ぶときに誰もが経験する「学びのチャンス」と捉えています。自分自身で気づいた間違えに対しては、「次はこうしてみよう!」「ここに注意をしてやってみよう!」と創意工夫して訂正できるものです。

一方で、間違えに気づかないのであれば、今はその段階だと受け止めることも大切です。

では、「気づくまで何もせずに待てばよいのでしょうか?」と言ったら、それも違います。できれば、その誤りにお子さま自身に気づいてもらえる工夫を考えていただきたいのです。

お子さまの興味・関心に寄り添い、発達に見合った探究の環境を用意することが大人の役割ですね。そのときに、大人が用意するのは「世界への鍵」です。

お子さまに「世界への鍵」を渡したら、お子さまがその子のタイミングで実際に扉を開けていきます。

幼児期は、色・形・香り・音など五感を通して、さらなる世界の探求ができるようになります。だから、感覚教育が有効なのです。

でも、「鍵の開け方」を知らないと、世界の探求の前に扉を開けることができません。この「扉の開け方」は日常生活で培っています。だから、知性の発達と成長のためには、「自分のことは自分でできる」という日常の土台が最も重視されているのです。

「数」や「文字」よりも大切なこと。それは、「自分のことは自分でできる」身体を獲得することです。そして、自分自身をコントロールできたことによる満足感が、さらに抽象的な世界への向上心にも繋がっていきます。

<参考文献>
国際モンテッソーリ協会(AMI)公認シリーズ01「人間の傾向性とモンテッソーリ教育」/株式会社風鳴舎/マリオ・M.モンテッソーリ著/一般社団法人AMI友の会NIPPON訳

世界の鍵