23年12月のモンテコラム 「ご家庭にモンテッソーリ教具を買わない方がよい2つの理由」

ご家庭にモンテッソーリ教具を買わない方がよい2つの理由

時々、「自宅で子どものためにどのモンテッソーリ教具を購入したらよいか?」といった主旨のご質問をいただくことがあります。
モンテッソーリ教育について学び始めると、計算し尽くされた「教具」に魅せられ、欲しくなる気持ちもよく分かります。私も、その魅力に取り憑かれた1人です。
ですから、もしご自身の学びのために購入したいのであれば、お気に入りの「教具」を購入することを止めるつもりはありません。是非、一緒にモンテッソーリ沼を楽しみましょう♪

でも「お子さまのために・・・」と考えていらっしゃるようでしたら、立ち止まって考えていただきたいと思っています。
今回は、そんな視点でお話しさせていただきます。

★2023年12月1日★

「モンテッソーリ・メソッド」と「モンテッソーリ教育」の違いはご存知ですか?

日本のモンテッソーリ教育第一人者である相良敦子先生の著書
お母さんの「発見」 の中で分かりやすく説明されているので引用します。

「モンテッソーリ・メソッド」と「モンテッソーリ教育」とを同一視すると、偏見や誤解におちいりやすくなります。
モンテッソーリ・メソッドはモンテッソーリ教育の大事な部分ですが、モンテッソーリ教育はモンテッソーリ・メソッドそのものではありません。
その二つを区別して考える基準を説明しておきましょう。
「モンテッソーリ・メソッド」とは、「モンテッソーリ教具・モンテッソーリ教師・モンテッソーリクラス」の三拍子が揃っていて、モンテッソーリ教具の全体系を忠実に実践する教育方法のことです。
「モンテッソーリ教具」とはマリア・モンテッソーリが自分のアイデアにしたがってデザインした教具で、その意味では特殊性を帯びています。感覚教具をはじめ、言語、数、文化に関する教具があり、
モンテッソーリはこれの特許をとって、制作権をニーホイスという会社に与えたので、誰もが勝手に制作することはできませんでした。最近は、世界で、いくつかの会社が制作権を与えられています。
「モンテッソーリ教師」とは、このモンテッソーリ教具をその目的に沿って正しく扱う技術とモンテッソーリがそれを作製しいた時の意向や精神をよく理解した教師のことで、そのための養成を受けることが必要です。
「モンテッソーリクラス」とは、モンテッソーリ教具の全体系が整備され、モンテッソーリ教師がいて、マリア・モンテッソーリが実現したような教育を実践しているクラスのことです。
これに対して、「モンテッソーリ教育」という場合は、モンテッソーリ教具がなくても、モンテッソーリ教師としての養成を受けていなくても、誰でも利用することができる開かれた面を言います。
モンテッソーリが開拓した「子どもの見方」「子どものたすけ方」はそれまでになかった新しい側面をもっていたので、人々がそれを利用する時に「モンテッソーリ教育」と呼んでいるだけです。
〜中略〜
マリア・モンテッソーリは、一方では、自分のアイデアで作った教具とその扱い方が純粋に保たれ、「モンテッソーリ・メソッド」のオリジナルな素晴らしさが後世に純粋に伝えられるのを願って、そのための教師養成コース・教師資格・教具などを管理する「国際モンテッソーリ協会」を設立しました。
しかし他方では、正反対のことを望んでいました。自分が発見したことは、生命の法則とそれに基づいた教育方法なので、人類の進歩とともに発展していくのだと言っています。孫のマリオ・M・モンテッソーリは、祖母マリアが願ったことは、その基本原理がみんなに利用され発展していくことだったと言っています。

お母さんの「発見」モンテッソーリ教育で学ぶ子どもの見方・たすけ方 / 相良敦子著/株式会社文藝春秋 /P27-29

ご家庭で取り入れることができるのは「モンテッソーリ教育」であることは一目瞭然ですね。
そして、「モンテッソーリ教育」を取り入れるために大切なことは、教具ではなく「子どもの見方」「子どものたすけ方」だということです。

お子さまが活動する環境に「教具」を用意するということは、モンテッソーリ・メソッドを実践する覚悟が必要だと思っています。
園やお教室は、それなりの覚悟を持って「教具」をそろえていると言い換えられるかもしれません。
中途半端に「教具」を取り入れても、正しく使わなければただの玩具と同じです。
それでは「教具」である意味がないのです。


それに、ご家庭に「モンテッソーリ教師」と「モンテッソーリクラス」を揃えることは、なかなか難しいですよね。
決して現実的ではないと思います。

そもそもご家庭は、外の世界に飛び出すための充電をする「安心の基地」であり、
辛いことや不安なことで押しつぶされそうな時に戻ることができる「安全な避難所」であるべきです。

まずは日常生活を快適に過ごすことに重きを置くことで、
「安心で安全な場所」になっていくのではないでしょうか?


さらに、我が子に対して
常に「客観的」に観察することに難しさは感じませんか?
ついつい「主観的」に考えてしまうことは、親であれば自然なことだと思います。

つまり、親の立場で「モンテッソーリ教師」でいることは非常に難しいのです。

実際、モンテッソーリ教師仲間のほとんどの方が
「自分の子どもには、モンテッソーリ教師として向き合うことは難しい」
とおっしゃっています。

それを、ご自身でやりたいと思いますか?


「子どもの見方」の土台になるのは、
子どもには自己教育力があるということと、それを発揮するためのヒントに「敏感期」があるということです。
ご家庭であれば、細かなことは気にせずに
「敏感期」の大枠を把握して、お子さまがチャレンジしたいことをサポートすることが大切です。

これが、ご家庭に「モンテッソーリ教具」を買わない方がよい理由のひとつ目です。

さて、先ほど紹介した著書の中で出てきた「教具」は感覚・言語・数・文化の4種だったことはお気づきでしょうか?

モンテッソーリ教育には5つの教育分野がありますが、すべての土台となる「日常生活の練習」の教具はありませんでした。
実は、「日常生活の練習」のお道具は「用具」と呼ばれて「教具」とは分けられています。

環境設定で大切にされている「子どもサイズの魅力的なお道具」とは、正にこの「用具」に求められていることです。
日常生活のあらゆることを「1人でできるように」サポートする「用具」には、これといった決まりはありません。
目の前の子どもたちを観察しながら、様々なアイデアで改良され続けていくべきものだと思います。

お子さまがチャレンジしたいことを、自分でできるようになるための「用具」を準備することは、
「子どものたすけ方」そのものです。

当然、その使い方を示すこと(提示)も必要なのですが、
それも含めて「用具」を用意することこそがご家庭に取り入れやすいものだと思うのです。

「用具」にも、感覚・言語・数・文化の要素を含めることはいくらだってできます。
ご家庭ではそれで十分ですし、それ以上はトゥーマッチです。


これが、ご家庭に「モンテッソーリ教具」を買わない方がよい理由のふたつ目です。


「用具」というと「もの」ですが、
「手しごと」というとイメージがしやすいかもしれません。


ご家庭でたくさんの「手しごと」を楽しんでいるお子さまは、
「モンテッソーリ教具」を正しく使うこともできます。


「モンテッソーリ教具」に触れずに育ったとしても
モンテッソーリ教育を取り入れた子育ては可能ですよ!

もし、何としても「教具」に触れさせてあげたいとお感じでしたら
そこはプロにお任せください。

ただし・・・
活動を選択するのはお子さま自身です。
「教具」より魅力的な「教具」があるかもしれないということは
どうぞお忘れなく!!