24年3月のモンテコラム 「なければ作ればいいんだ!」

なければ作ればいいんだ!

★2024年3月1日★

先日、小学生が「うーん・・・」と唸りながら作っていたミニチュア牛乳パックがとても素敵で、それをアレンジした組み立て台紙を作成しました。これが今、5~6歳の子たちに大人気です。

幼少期からたくさんの手しごとを楽しんできた子たちは、自分たちの手には様々なものを作り出す力があることを知っています。

私たち人間の「手しごと」については、エレメンタリーのグレートストーリー「人類のはじまり」の中でも語られています。今回は、小学生との対話から出てきた「なければ作ればいいんだ!」という発想の原点である「手しごと」について書きました。

小学校低学年を対象としたエレメンタリークラスでは、宇宙誕生から現在までの長い歴史の中の「はじまり」に着目したものがたりを伝える「レッスン」から興味の世界いを広げる取り組みを行っています。
宇宙が誕生したのは、今から138億年ほど前。そこから地球ができ、地球に最初の生命が誕生し、長い長い時間をかけて驚くべき種類の動物や植物がこの地球上に現れました。

今見つかっている人類の一番古い共通祖先は、700万年前~600万年前ごろにアフリカで生活していた「サヘラントロプス・チャデンシス」だそうです。宇宙や地球の歴史から考えると、私たち人間はほんの少し前に現れた新参者ですよね。
でも「サヘラントロプス・チャデンシス」などの旧石器人が暮らしていた頃の環境は、今とは全く異なるものでした。そのころの世界は、自然に与えられたものだけでできていました。

お腹がすけばごはんを食べればよい・・・と考えるのが現在の私たちですが、そのごはんを確保するためにも命がけだったはずです。植物を採取すること一つをとっても、「毒ではない」という知識がなければ食べること自体が危険な行為だったかもしれません。
病気になったときに行くべき病院もないし、遠くに移動したくても、当然車やバス・電車・飛行機などはなく、自分の脚だけが頼りだったはずです。いたる所に暮らす野生動物から身を守るのも、自分たちで考える必要がありました。

こういったことを小学生と一緒に対話をしながら考えていると、いかに現在の私たちの暮らしが過去の名もなき人々の経験の上に成り立っているかを思い知らされます。
そして、考えることを好む児童期の子どもたちは、対話をしながらたくさんのことに気づき、新たな問いを見つけて探究することを楽しんでいます。

旧石器人は、自然界で見つけたものを使って生きる術を学ばなければなりませんでした。
そして、より便利に、よりスピーディーに、より簡単に誰もが生きることができる術を獲得して現在まで受け継がれてきました。

モンテッソーリ教育では、旧石器時代の人々と現在の私たちの間には、普遍的な「基本的ニーズ」が存在するはずだということを前提に考えを深めていきます。「衣・食・住」はもとより、「移動手段」や「医療」、「創造性を満たすための芸術」や「心を慰めるためのエンターテインメント」や「信仰」も人間の「基本的ニーズ」だと考えられています。

この「基本的ニーズ」を満たすために活躍したのが「手」であり、「手しごと」が私たちの暮らしを豊かに変えてきました。
ぜひ一度、私たち人間に近い類人猿であるチンパンジーの手の平の画像を検索してみてください。親指の長さや向き、手のひらの大きさがだいぶ違うことに気づきます。
私たちの手は、鉛筆を持って文字を書くことができます。ボールを掴んで投げることができます。お箸を持って、小さなものをつまむことができます。チンパンジーと比較することで、私たち人間の「手」の器用さの理由が想像しやすいと思います。

小学生の子どもたちとは、この手があったからこそ自然に与えられたものを組み合わせて「石器」を作ることができたし、それを進化させてきたのだというお話をします。
彼らが「手しごと」を好むのは、物ごとの本質を直観しているからなのかもしれません。

「なければ作ればいいんだ!」というのは、子どもから発せられた言葉です。
私たち人間は、自分の手を使って生活を豊かにしてきました。
どんなに便利な世の中になっても、自分の手で何かを創造したいという思いは内側から溢れてくるものなのだと思います。その思いなくして、新たな価値は生み出せないのではないでしょうか。

一方で、例えばスマートフォンでも手軽にゲームが楽しめるし、YouTubeなどで簡単に楽しく学べるコンテンツが増えてきた今、自然に与えられたものを使ったアナログの作業は時代遅れのようにも捉えられがちです。「なければ作ればいいんだ!」という発想自体が生まれにくい環境になっているような気がして、少し不安になりました。


冒頭でお話ししたミニチュア牛乳パックを作った子は、おままごとで使いたいからと
実際の牛乳パックの形を頭の中で思い出しながら方眼画用紙を使って展開図から作ったと聞きました。
プロトタイプを作ってみたら、底面がなくて後から付け足したと笑いながら語っていたのが印象的でした。

また、妹が作りたがっているけれど、方眼画用紙から作ることができずに悔しそうにしている
というお話を聞き、みんなが喜びそうなモチーフをと考えて作ったものがお教室でヒットしたのです。


ヒットの理由を、子どもたちの姿から考えました。
おままごとに活用したいという子のニーズ。
底面の位置によって4種のデザインを作ったので、彩りを考えながら4種類集めたいという子のニーズ。
出来上がったパックの注ぎ口を広げたときの嬉しそうな笑顔は、平面の画用紙から立体物を創造できたという自信を感じます。
生活に当たり前に存在する「牛乳パック」という立体物の構造に興味を持つきっかけにもなるでしょう。

今まで「台所」からはじまる学びについて考え、発信してきましたが、こういった発展の仕方もあることを子どもたちの姿を通して気づかされました。
あらためて、子どもから学び、それを子どもに還元していくことの大切さを感じています。