23年11月 就学前に文字や数の習得より大切なこと

年長学年のお子さまは、そろそろ本格的に小学校入学準備が始まる時期ですね。

今は、ランドセルの注文を入学前々年末から開始する工房もあると聞きます。そういう意味では、年中学年のお子さまをお持ちのご家庭でも、就学に向けた意識が芽生え始める時期かもしれません。

それに伴い、幼児期後期になるにつれて、文字や数を始めとした「知的分野」に大人の意識が向きがちなように思います。
もちろん、文字や数への敏感期に沿った環境を作ることは大人の役割ですが、そればかりに意識を向けることはよいことなのでしょうか?
今回は、就学前に文字や数への興味より大切なことについてお話させていただきます。

5-6歳に訪れる敏感期

文字や数の敏感期だけでなく、宇宙や、世界についてなど
文化の敏感期ならではの興味の世界の広がりも目立ってくる頃ですね。
いわゆる「知的分野」への興味関心は、大人を安心させる姿なのかもしれません。

でも、それだけではありません。
運動の敏感期や感覚の敏感期もまだまだ続いています。

それまでにたくさん手しごとをしてきたお子さまは、
より洗練された手しごとへと興味が移り変わってきます。
大人顔負けの細かな作業ができたり、
手指の力もかなりついてきています。

手の準備が整っていれば、
文字を書くための鉛筆も、食べるためのお箸も、
正しく使うことができるようになってきます。

でも、準備が整っているかどうかは個人差が大きく、
早ければよいというものではありません。

一方、感覚刺激を楽しみながら
情報を区別したり、並べたり、仲間分けする活動も大好きです。

そして、おうちの中で
運動の敏感期・感覚の敏感期が最も満たされる環境は「台所」です。
「台所しごと」に参画することで、様々な手しごとを体験できます。

感覚教具がなくても、「食」という営みの中で
自然の恵から「微差」に気づく感性を養うこともできます。

そうやって「台所しごと」を楽しむことで、
文字や数を操作する基礎も養うこともできるのです。

体験と暗記の違い

モンテッソーリ教育では、実体験が大切にされていますね。
なぜだと思いますか?

吸収著しい幼児期は覚えることがとても得意なのですが、
体験を伴わないとただの暗記になってしまいます。

例えば、
フラッシュカードで様々な野菜や果物の名前が言えたとしても、
その立体的な形や、香り、手触り、味などを体験していなかったとしたら・・・

実物に出会っても、同じものとして結びつくかどうかは分かりません。
これは、ただ暗記をしているに過ぎないのです。

そんな暗記に何の意味があるのでしょうか?

秋になると
「今日は、お芋掘り行ってきたよ!」と教えてくれるお子さまが多くいます。

幼稚園や保育園で芋掘り体験が大切にされているのは、
ただ食材としての「芋」だけでなく
土の中で育ってきた「芋」を掘り起こす体験に意味があるからです。

土の匂い、泥だらけになった感覚、土に根を張る力の強さ、自分で掘った芋の味・・・

全身・全感覚を使って「芋」と触れ合う体験と、
フラッシュカードのイラストと「い・も」という言葉を対にするだけの活動

前者の方が深い学びになることは、一目瞭然ではないでしょうか。

同じことは「台所しごと」にも言えると思っています。

就学前までに○○ができるように・・・なぜ?

「小学校に入学するまでに間に合いますか?」
というご相談を受けることがあります。

前提には、
就学前までに親としてできていて欲しい項目がいくつかあるようです。

文字の読み書きや、数への興味など
それも大切なことではあります。

でも、好みや得意分野が人それぞれだとすると、
入学前に全てのことができている必要は本当にあるのでしょうか?

できていて欲しい項目があることで、
「できないこと」に意識が向きがちではないでしょうか?

就学前までにとか、低学年のうちに などと期限を決めるのではなく、
今、目の前にいる「この子」の興味がどこにあるのかに着目して
「その子の力でできるようになっていること」に意識を向けられるとよいですね。

とはいえ、不安になること自体は自然な感情なので、
何か拠り所が必要かもしれません。

だとしたら、幼児期に何か特定の項目をできるようにすることよりも、
「学び方」を習得することに重点を置いてみてはどうでしょうか。

「学び方」さえ習得していれば、
興味を持ったタイミングでチャレンジして、できるようになるものです。

「学び方」を獲得するには、失敗も含めて自分で体験することが大切です。

「できるようになりたい!」という意欲があれば、
一度や二度の失敗ではへこたれません。
何度だってチャレンジして、試行錯誤しながらできるようになっていきます。

そして・・・
きっと、自信がなくなったり 助けて欲しいときに、皆さまの元に戻ってきます。
戻ることができる場所、安心な場所 それだけで十分です。

もし、自分でやりたがらずに
何でも「やって!」と丸投げする様子が続くとしたら、
それはきっと、手出し口出しすぎです。

代行してもらうことが当たり前になると、
「できるようになりたい!」という意欲も失ってしまいます。

くれぐれも、すべて代わりにやってあげて
失敗する機会を奪うようなことだけはしないでくださいね!

自分で選択した活動にチャレンジして、
できないプロセスを経て、
試行錯誤しながらできるようになる経験
こそが
幼児期に最も大切なことだと思います。

プロフィール

ママヴィ 代表|桑原 眞理子

大学卒業後、食品メーカーを中心に商品開発·マーケティング職に従事。
「こども哲学」との出会いをきっかけに子どもの斬新な発想に魅せられ、子どもの力を社会に届けたいという想いからモンテッソーリ教育を学ぶ。
子どものマーケティング思考を育む6歳からの体験型キャリア教育プログラム「こどもマーケター入門」を開発し、ワークショップ等を開催。現在は「モンテッソーリ教室 マヴィのおうち」を拠点に、マーケティング思考で自ら変化を起こすチカラを育む環境づくりに取り組む。
・日本モンテッソーリ教育総合研究所認定 3-6歳教師
・保育士
・NPO法人こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ 理事(哲学対話ファシリテーター)
・日本野菜ソムリエ協会認定 野菜ソムリエプロ

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