人間はそれぞれの違いを受け止め、互いに調和して暮らしています。
他者との調和には、ひとりひとりが知性を使って考えるだけでは十分ではありません。
互いの考えを理解しあうことが必要不可欠です。
そのときに、「共に考えるための手段」であり、「相互理解のための道具」となるのがことばです。
今回は、「ことば」獲得段階のお子さまと向き合うときに知っていただきたい大切なことをお話いたします。
「ことば」とは・・・
見方によっては、
単なる呼気であり、
一連の音の連なりに過ぎないのが「ことば」です。
例えば、「りんご」という単語を構成する、
「り」「ん」「ご」という一連の音には意味がないですね。
でも、多くの日本人は「りんご」という言葉を聞くと、
そのものをイメージすることができます。
「一連の音に特定の意味を与えることを人々が同意した」
という事実があって初めて、
「りんご」という音に意味が与えられます。
そして、共通認識をもった人はそのものをイメージできるのです。
全ての「ことば」は、ある集団における合意であり、
その一連の音について合意している人だけが
その音の意味を理解できるということになります。
「りんご」という音を聞いたとき、
日本語としてその音に共通の意味を見出した人だけが、
赤くて、丸い果物の「りんご」をイメージできるのです。
話しことばの発達
「ことば」に関する神経系統のメカニズムが「言語中枢」です。
この言語中枢は以下2つあり、
それぞれが独立して感覚器官と連携しています。
- 人が発したことばという特別な音にだけ反応し作用する「聴覚中枢」=耳
- ことばを発音し、話すための「運動中枢」=口・喉・鼻
聴覚中枢で得た周囲で話されていることばは、
吸収の精神にしたがって無意識に吸収して定着します。
一方で、
ことばを発するために必要な運動中枢は、
ゆっくりと発達します。
それは、まず子どもが聞いた様々な音が定着することで、
「自分でも音を生み出す」という力を呼び起こすからです。
生後1年程度の間に起こる二つの大発見!
誕生してしばらくすると、
「人が発したことば」という特別な音に反応するように
声の方を向くようになります。
これは、
自分を取り巻く特別な音が人間の口から発せられるという発見です。
すると、話し手の口元をじっくり観察するようになり、
その動きを真似しようとします。
じきにに自分の口で「あー」「うー」など音を出すようになると、
ことばを発音し、話すための運動中枢の著しい発達が始まります。
音節をなす複数の音である喃語を発しながら、
人間の口から発せられる音には目的があるということに気づき始めます。
そして、少しずついくつかの単語を「意図して」発するようになります。
とはいえ、
考えていることを伝えたいのに表現する術が限りなく少ないため、
全力をつくして「ことば」を獲得しようとします。
新たな発見!
「もの」には名前があるということ
「ことば」を獲得している時期は、
たくさんの単語をはっきりと、
文法的に正しい言葉で話しかけることが大切です。
一つ一つは無意識に蓄積されていきます。
しばらくすると、さらに新しい発見をします。
それは、「もの」には固有の名前(名詞)があるということです。
名詞の語彙が格段に増えると、
考えていることを表現しようとして、
不完全な単語を用いた、文法に則らない文を話すようになります。
自分の考えを表現しようと必死で努力している時期ですので、
大人も、その努力を受け止め、理解しようと努力することが大切です。
「これはなに?」は最終段階
お子さまの発語が増えてくると、
ついつい「これはなに?」と答えさせたくなりませんか?
でも、どうぞ焦らないでください。
モンテッソーリ教育では「セガンの3段階の名称練習」という方法を取り入れています。
これは、感覚で捉えた「もの」に名前を与え、ことばに置き換えていくためのステップです。
- 記銘のステップ
この段階では、
「もの」と「名前」を結びつけるために、
大人が子どもに紹介をします。具体的なものを使って、
「これは、○○です」
「○○をどうぞ」
など、そのものの名前を何度も伝えながらコミュニケーションを取っていきます。
一つの単語は、1,000回聞いて覚えるとも言われています。
さまざまな五感体験を交えながら、
コミュニケーションを楽しみたいですね。
何度も何度も「ものの名前」を伝え、
そのものの名前を覚えたと感じて初めて次のステップです。 - 保持のステップ
この段階は、「名前」に対する「もの」の認識を確認しながら、結びつきを強めていきます。
例えば、
「○○を取って、私にください」
「○○をここに置いてください」
など、ものの名前を発するのは大人の役割ですが、
子ども自身が操作をします。
意外と、このステップは忘れられやすいのですが、
とても大切なステップです。
繰り返される度に手を動かすので、
記憶に定着させつつある単語とものを結びつけることができるようになります。
もしお子さまが興味を持たなかったり、
答えようという素振りがないのであればそれ以上突き詰めなくて大丈夫です。
また、間違えた時は「違います。○○はこれです。」などと訂正する必要もありません。
そういった場合は、日を改めるか、改めて第1段階に戻ってみてください。 - 再生のステップ
ここで始めてお子さまに
「これはなに?」と、ものの名前を尋ねます。
その前に、
対話の中でたくさん「もの」の名前を伝えていただきたいのです。
大学卒業後、食品メーカーを中心に商品開発·マーケティング職に従事。プロフィール
ママヴィ 代表|桑原 眞理子
「こども哲学」との出会いをきっかけに子どもの斬新な発想に魅せられ、子どもの力を社会に届けたいという想いからモンテッソーリ教育を学ぶ。
子どものマーケティング思考を育む6歳からの体験型キャリア教育プログラム「こどもマーケター入門」を開発し、ワークショップ等を開催。現在は「モンテッソーリ教室 マヴィのおうち」を拠点に、マーケティング思考で自ら変化を起こすチカラを育む環境づくりに取り組む。
・日本モンテッソーリ教育総合研究所認定 3-6歳教師
・保育士
・NPO法人こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ 理事(哲学対話ファシリテーター)
・日本野菜ソムリエ協会認定 野菜ソムリエプロ