24年2月のモンテコラム 「大人と子どもは違う」という原則

「大人と子どもは違う」という原則

★2024年2月1日★

モンテッソーリは、教育の基本的な原則は「大人と子どもが違うこと」だと説いています。
「いつから大人になるの?」「大人と子どもの線引きはどこ?」という問いが生まれてきそうなのですが、今回はモンテッソーリが説いた教育の基本原則としての「大人と子どもの違い」についてご紹介いたします。

モンテッソーリは、子どもと大人は地球の北極と南極くらい、同じ人間でありながら全く違う価値観やメンタリティーを持っているとおっしゃっていたそうです。
ここでいう子どもとは、「人間」としての一定の基準に到達しようと絶えず動き続ける存在です。つまり、成長のプロセスの中で常に変化していく存在ということになります。
一方で大人とは、生育を完了して「人間」として一定の基準に到達した存在をいいます。ですから、常に変化するということはありません。

まずは、絶えず発育して変化している子どもに対して、変化が少ない私たち大人が関わってるという事実を意識することが非常に重要です。
変化が少ない私たち大人は、スピード、効率、完成などを重視しがちです。
でも、子どもには固有のテンポやリズムがあります。早ければよいという価値観もありません。むしろ子どもたちは、じっくり時間をかけてでも新しいことにチャレンジして、ひとつひとつできるようになっていくことを楽しみます。できなくて試行錯誤するプロセスも含めて、楽しんでいます。
大人の価値観で励ましたり、急かしたり、完成品をあてがおうとすることは、子どもとの深刻な食い違いのきっかけになりかねないのです。

教育とは、大人が、①先ず、子ども期の意味をわかり、②次に、万人に共通の発達計画と発達の法則を知り、③その発達計画とか法則に従って子どもの生命を刺激し、発展させ、④遂には、その時期固有の子どもの状態を100パーセント開花させ、子どもの中に潜んでいた本来の姿を実現させることなのです。
モンテッソーリ教育(理論と実践)第一巻 モンテッソーリ教育の理論概説/相良敦子著/株式会社学研教育みらい/p18

モンテッソーリは人間が真に完成するのは24歳ごろだと考え、それまでを6歳刻みで4段階に区切りました。その中でも、18歳ごろまでの3段階(幼児期・児童期・思春期)が大きく変化を遂げる時期になります。ちょうど、高校を卒業する頃ですね。
この発達の段階は、例えば蝶が成虫になるまでに卵・毛虫・さなぎ・成虫というプロセスを辿るのと同じように、全く異なる性質を持っていると考えられています。
もし成虫の蝶が、枝の先の柔らかくて食べやすい葉を求めて光に向かって進んでいる毛虫に対して、必死で飛び方を教えようとしていたとしたらどう思いますか?それぞれの段階の性質を理解していないと、このようにトンチンカンな向き合い方をしてしまうのではないでしょうか。

モンテッソーリ教育には、それぞれの段階に属する子どもたちの特長がイメージしやすいスローガンがあります。それぞれのスローガンを頭に入れておくだけでも、その時期の子どもと接するヒントになると思うのでご紹介します。

幼児期のスローガンは「ひとりでできるように手伝ってね!」です。
前半の3年間は、周囲の環境から「無意識」にありとあらゆる感覚印象を吸収して溜め込む時期といわれています。
分かりやすいのは母語の獲得ですね。育った環境で語られている言語を聞いているだけで、その文法構造や発生の方法まで無意識に習得してしまいます。大人だったら何年も努力しなければ習得できないことを、ほんの数年で無意識に獲得できてしまうのは、吸収する力の賜物です。
一方で、自分の身体を自由に操作できるように動くことにも並々ならぬ力を注ぎます。興味があるものに手を伸ばし、動きまわることで環境を吸収します。
このように無意識に動きまわることで、次第に意識が芽生え始めます。3歳前後には、はっきり意識をしながら手を使って物事を整理するようになります。ですから、幼児期後期には環境からさまざまな印象を吸収する感覚器官が研ぎ澄まされ、手を頭脳の道具として活用することを好みます。

幼児期は自己を作る時期なので個別の活動が中心でした。
それが、小学生・児童期になると「ひとりで考えられるように手伝ってね!」と変化します。
幼児期のような敏感期は徐々になくなっていくものの、感覚的な学びを基礎にものごとを理解し、少しずつ抽象化して学ぶようになっていきます。
想像力が豊かになるため、目の前にないものを思い描いたり、工夫することなども楽しみ始めます。
児童期は、友だちとの関わりを求める時期でもあるので、グループ活動を中心に学ぶことを好みます。

さらに思春期になると、社会の中の自分というように視野が広がってきます。
スローガンは「あなたと、共に、できるように手伝ってね!」と変化します。
モンテッソーリ学校では、この思春期にたくさんのボランティア活動、コミュニティへの参加、社会貢献の体験などをすることが推奨されているそうです。

私たちは、一見非常に混沌とした世界で暮らしています。
幼児期の子どもたちはその混沌の中に自ら飛び込み、ものごとを区別する活動を好んで取り組みます。
ものごとを区別する活動とは、例えば「同じものを見つけてきれいに並べる姿」「形や色などで分ける姿」「大小比べる姿」など熱心に繰り返し好んでいることです。
モンテッソーリは、区別しながら秩序を生み出すプロセスに「知性」を見出しました。「知性」は教え込むものではなく、子ども自身で「やってみたい」という動機で選択することから育まれると考えられています。

このことを具体的に見れば、例えば子どもが、自然に何かを夢中でやっている時には、大抵、いつの間にか、「分けたり、比べたり、合わせたり、集めたり」しています。この自発性と持続性を支える活動の性質は、やがて文化の世界に興味深く入っていく年代になると、「分類、比較、対応、総合」などに表れていきます。
モンテッソーリ教育(理論と実践)第一巻 モンテッソーリ教育の理論概説/相良敦子著/株式会社学研教育みらい/p25

子どもが集中して取り組んでいることには意味があります。私たち大人は、大人の価値観で褒めたり、よかれと思って手や口を出してしまう可能性が大いにあることを、常に意識して子どもと向き合うことが大切なのではないでしょうか。