2022年6月の台所モンテコラム

★2022年6月1日★

幼児期からの「てつがく対話」

先日、2年半ぶりに「こどもてつがくのアトリエ」のイベントを実施いたしました。
一般的に、モンテッソーリ教育に哲学対話が取り入れられている訳ではありませんが、進行する上で大人が配慮すること、どんな環境を用意するのか、子ども達の過ごし方には共通点が多いと感じています。

そこで今回は、モンテッソーリ教師の視点から哲学対話のエッセンスを取り入れた「対話」についてお話させていただきます。

今から40年以上前に、アメリカのコロンビア大学哲学科教授 マシュー・リップマンによって提唱された教育プログラムです。

斬新な発想力(Creative)・疑問を持つ力(Critical)・思いやる心(Caring)の3つの「考える力」を育てるプログラムとして、小中学校の子どもたちを対象に始まりました。

「哲学」というと、過去の哲学者の名前や、哲学論を持ち出して議論することを想像する方もいらっしゃいますが、そういった取り組みではありません。
自分たちの身の回りにある素朴な「問い」について、自分の頭で考え、他人の意見を聞き、時には意見を変えながら、思考を深めていく取り組みです。
ユネスコやハワイ大学のトマス・ジャクソン教授などは、「考える力」を育むことにとどまらず、市民性教育や共同体の形成など、様々な効果があると伝えています。

情報スピードがどんどん早くなっていく現代において、立ち止まってじっくり考える時間はとても貴重なことではないでしょうか。

3歳を過ぎたころから、「なんで?」「どうして?」が次から次へと湧き上がるようになりますね。
疑問を持つ力(Critical)が芽生えるのはこの頃です。
とはいえ、言葉が発達してきておしゃべりが増えてきたからといって、いきなり対話は成立しません。
自我が芽生えて自己主張をし始めたら、まずは大人がその子の言いたいことに耳を傾け、
時に代弁しながら言葉を介したコミュニケーションの仕方を紹介していきます。

哲学対話のエッセンスを取り入れるには、その子の主張の「理由」を問うところから始めます。
でも、理由を答えることは簡単ではありません。幼児期の子どもたちにとって、抽象的な言葉だけで考えるのは難しいことだからです。
「分からない・・・」と思考のシャッターを閉められてしまったら、深追いせずに待ってみることも大切です。
実体験を伴う活動から対話に落としてみると、子どもから発信される「なんで?」「どうして?」をきっかけに、深く掘り下げやすくなります。

自分とは考えが違う他者の存在を理解できるようになるのは、5歳前後からです。
さらに児童期になると、他者の視点で考えて、判断することもできるようになってきます。
また、自分と違う意見に出会うことに面白みも感じ始めます。
そうなると、ただ自分の意見を主張するのではなく、他の子の意見に耳を傾けて考えることも増えてきます。
低学年のうちは、実体験を伴う活動から対話に落としてみると掘り下げやすい印象です。
遊びの中から「なんで?」「どうして?」を見つける力を育んでいきたい時期です。
自分たちで考えたい「問い」を見つけることができると、子ども同士で問い合いながら掘り下げることもできるようになります。

イベントなどでこどもてつがくを開催する際、マットを敷いて対話をする環境を用意しています。
輪になってお話するための場所ではあるのですが・・・
必ずしも輪になって話すことを前提にはしていません。

ゴロゴロと寝転がってみたり、時々ふらっと歩いてみたり、
自由なスタイルでも考えることや、他の子のお話を聞くことはできるものだと
今まで参加してくれた子どもたちが教えてくれました。

大人が勝手に決めた枠組みを押し付けるのではなく、
子どもたちの気持ちに寄り添ってみると、本質を見失わずに楽める場になっているものです。

何かを教えようとか、考える力をつけさせようというスタンスからは一旦離れて向き合いたいものです。
親子で対話をする時には、結論を急がず、じっくりゆっくり立ち止まるくらいの気持ちが大切です。
子どもたちが、目の前の世界で生じる様々な事柄に全身で向き合い
「なんで?」「どうして?」と面白がっていることに気づくところから、親子の対話は始まるのではないでしょうか。
肩肘を張らず、大人も子どもも同じ目線で楽しむことが、一番大切なコツではないかと思います。